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【中小企業応援リレーコラム】
不況突破のための十二計 新事業成功の計《中小企業応援リレーコラム vol.14》

2010年1月18日

がんばる中小企業応援リレーコラム
「不況突破のための十二計 新事業成功の計」
ちよだ中小企業経営支援協会 小田 明彦 氏
(PDFでお読みになりたい方はこちら

 

 今回、リレーコラムを担当させていただきます小田明彦(おだあきひこ)と申します。よろしくお願いいたします。

「新事業」に伴う不安

 この不況の時代に「新事業」などと申しましても、なかなかピンと来るものではありません。多くの中小企業者の皆様は、現在の自社の事業を守ることで精一杯でしょう。とても新たなリスクを冒す気になどなれないといったところだと思います。
 ところで「新事業進出」とは、複数の収益源を構築するという点から考えると、「多画化」とほぼ同一のものだと考えられます。「多画化」と言うと更に敷居の高い、大手企業の専売特許のように感じられる響きがあります。また下手に多画化することで、貴重な経営資源が分散してしまったり、これまで構築してきた企業ドメイン(事業領域)が不明確になってしまうのではないかという不安が拭えないものかもしれません。

「新事業進出」と「多画化」

 この不安は、「多画化」を「既存の製品・市場と関係のない分野へ進出すること」と捉えることから来るのではないでしょうか。実は日本を代表するような大企業であっても、それまでの事業と完全に無関係な分野に取り組む多画化を行っている例は殆どありません。世の中で行われている多画化の殆どは、既存の製品または既に進出している市場、或いはその両方を基盤に関連性のある分野へ進出しているものです。
 マーケッティングの世界では、既存の商品をこれまで販売してこなかった流通チャネルに展開したり(例:業務用のシャンプーを一般向けにリニューアルして発売する)、逆にこれまで取り組んできた市場に新規取扱商品を展開したり(例:アルミ建材商社がアルミ以外の材質のものも取り扱う)すること、或いは現在の市場の中のこれまでと異なる流通段階に進出する(例:卸売業者が小売店舗をオープンさせる)こと、これらを全て多画化と考えます。関連のある分野へ進出する場合には、現在保有しているノウハウをそのまま活用したり、応用することが可能です。これを「シナジー効果がある」と表現しますが、一般的には、このシナジー効果を追求することができたものほど、多画化は成果を上げているといってよいでしょう。
ところで企業がこれらの多画化を行う目的の一つは、もちろん売上の増大と企業の成長であります。しかし多画化の目的はそれだけではありません。

多画化の効用はリスクの分散と余剰資源の有効活用

 事業は好不況の波を受けます。また、事業にはライフサイクルがあり、今順調な事業もいつかは衰退するものです。多少なりとも収益モデルの異なった複数の事業を展開していることで、こういった将来の不確実性に備えることができます。
また、余剰感のある人材、遊休状態になっている設備などを活用することができれば、いわゆる効率的な経営となり、会社全体の生産性が上がります。
 ここで以前私が勤務していた会社の例をお話します。私の会社は、神田駅前で薬の安売り店を経営していました。当時はまだ大手のチェーンストアは殆どなかった時代だったため薬はよく売れ、メーカーや問屋から売り込みが殺到していました。しかしいくら良い条件で仕入れてもお店で売れる量には限界があります。そこで当時の社長は、卸売業への進出を思い立ちました。仕入れ過ぎた不良在庫を新たな収益源へと転換したのです。
 やがて卸売業も当初の伸びを達成できなくなり、社内では人余り感が溢れ出しました。そんな人材の中に、かつて飲食業で働いていた従業員が2名いました。それに目を付けた社長は、今度は立食い蕎麦店への進出を思い立ちました。安売り店で培った店頭POP作成能力などを総動員した結果、この事業は当社の苦境期に収益を支える存在となりました。
時は経ち、世の中にはドラッグストアが乱立しました。人々は家の近くで薬を安価に買えるようになったため、少々安くしても神田で薬はあまり売れなくなりました。卸売業においても、それまで得意先にしていた薬店が続々と廃業に追い込まれ、実績は目を覆うばかりに落ち込みました。そこで今度は、新進気鋭のディスカウントストアへの売込みを始めました。これまで蓄積してきた仕入能力に加えて、卸売先で学んだ色々な経験を活かした店舗運営に関するアドバイスを行い、ディスカウントストアの若いスタッフに対して、大手卸売業者と一味違った痒い所に手の届くような営業活動を繰り広げました。
 私たちを好感を持ってくれたディスカウントストア側は、今度は我々に対して、洗剤などの日用品を安価に分けてくれるようになりました。我々はこれまで取り扱ってこなかった商材を手に入れ、これらを武器に更に新たな得意先を開拓することができました。この結果、会社は再び息を吹き返すことができたのです。

必要条件は「スループット* > 投資金額」
* スループット:商業では粗利、製造業では付加価値のこと

 繰り返しになりますが、多画化は大きな会社のみに許されたものでなく、また必ずしも大きな投資と決断を伴うものでもありません。
 広い意味で捉えれば、前章の私が勤めていた会社の話のうち、下線を引いた部分全てが多画化です。卸売業と立食い蕎麦屋さんへの進出は文字通りの多画化ですが、これまで取引して来なかったディスカウントストアにパイプを構築したのも、これまで取り扱わなかった日用品を取り扱うようにしたのも立派なプチ多画化です。(卸売先で商品を卸すと同時に商品を仕入れ出したのもプチ多画化と言えます。また、ディスカウントストア側が我々に商品を提供したのも小売業が卸売を行った多画化と言えます。)
 結果として、それぞれの多画化はそれぞれの段階で会社を救ってきましたし、余剰人員を整理することもありませんでした。それを可能にしてきた理由は、既存の経営資源を有効に活用できたからに他なりません。
 社内に人手が余っていても、おいそれと辞めて頂く訳にはいきませんから、人件費は固定費としてかかります。そんな時は余剰人員に千円でも百円でも稼いで貰えればその分会社は助かります。とはいえ、新たに産まれるスループットが投資金額を上回らなければ意味がありません。また、全く新規のことを始めるよりも、身に付けた技を使った仕事の方が生産性は高いに決まっています。ですから、現在保有している在庫やノウハウをそのまま活用できる、つまりシナジーがありローリスクな展開であることが重要なのです。

成功のキーワードは「顧客志向」

 もう一つ忘れてならないのは、これから始めようとすることが「お客様から喜ばれること」でなければならないということです。自社の側でどんなにシナジー効果があろうとも、お客さんに迷惑がられては必要なスループットにはつながりません。
例えば既存の顧客に新規に取り扱う商品を売り込むことを考えてみましょう。新規の商品が、これまで世の中になかった新たな発明品である場合はよいのですが、そうでない場合、必ず先行してその顧客に納入している別の業者さんが存在します。余程の値段の開きでもない限り、執拗に売り込まれれば、既存の業者さんの手前顧客は困ってしまいます。ちなみに私はこんな場合、先ず自社で提供できる中で最もお勧めできる1品から買って頂くことをお勧めしています。こうすれば顧客の抵抗感がかなり軽減できます。
 もう一つ参考になるのが、ある仕出し弁当屋さんの例です。リーマンショック後、手弁当を持参して仕出しを頼む人が減ってこのお弁当屋さんが考えたのは、弁当と共にマイ箸や一人用水筒を販売することでした。爆発的ではありませんが、これらは手弁当と競合せず、昨今のエコブーム下でタイムリーな企画でお客さんに喜ばれ、結構売れています。もしこのお弁当屋さんが売上死守のために、更に安価な弁当の追加販売という手段を取っていたら、結果的に客単価を下げて利益を圧迫するだけだったでしょう。お客さんが受け容れ易い商品を提案して現状プラスアルファでお役に立てた成功例と言えるでしょう。
 また最近、新潟県で国の農商工連携施策を活用して大葉の水耕栽培を行っている建設業者さんとお話しする機会がありました。ここのところ地方の建設業者さんには、公共工事の大幅減少により過剰となった人材を活用して農業に進出している事例が多数ありますが、実を結んでいる例は多くありません。その殆どは、農作業に耐えられずに退職する元建設作業者が続出したり、ようやく収穫に辿り着いても今度は販売先がないのだそうです。建設業者さんが単に農業を真似るだけでは、シナジー効果はなかったということでしょう。 
 この訪問した建設業者さんもそれなりにご苦労をされていました。しかし、この社長の目に曇りはありませんでした。彼等の目的は大葉そのものの販売ではなく、大葉を栽培する水耕栽培施設の販売だというのです。「今は先ず新たな水耕栽培の方法を確立する段階であり、然る後に全国の安心安全を志向する農家に、これまで蓄えた当社の建築技術を駆使して当水耕栽培システムをプラントとして販売する。現在生産に携わっている社員は技術者として活用できる。いま既存の農産物流通経路と戦う必要はない。」というのです。この社長は単なる余剰人員の活用だけを考えていたのではなく、社内シナジー効果と農業進出に際しての最終的なお客様の満足を見据えているのです。この建設業者さんの成功は、そう遠くない日に実現すると思われます。

不景気の時こそ社長は

 私の勤務していた会社で多画化の過程においては、社内から「我々は薬屋だ。餅は餅屋に任せるべきだ。」とか、「洗剤なんて重たいばかりで儲からない。」などという否定的な声はたくさん上がっていました。確かに日々のルーチン業務に追われている一般社員には、なかなか新たなビジネスチャンスなど見つけられるものではありません。特にベテランの社員には、どうしても「私の仕事はかくあるべき」という固定観念が芽生えてしまいます。
 ですからここは是非経営者の方々に頑張って頂きたいところです。既存の業務と一緒にできること、既存の業務の延長上でできるもの、余剰社員の中に埋もれている能力を活用できるシーンはないか。現在の経済状況と経営資源で、どうすればスループットを上げられるか。不況の時こそ、これらを大所高所から考えることが、「社長の仕事」として望まれるのではないでしょうか。
 社員の営業先には是非社長にも同行して頂きたいと思います。そして訪問先で社長は、社員と一緒になって頭を下げるだけではなく、「その得意先で自社がプラスアルファで何かお役に立てることがないか」という視点に立ち、そのためのヒントを見つけ出すような会話をして頂きたいと思います。
 バブル期に当時の多数の会社が、不動産投機等の自社の既存ビジネスとは凡そシナジー効果のない分野に多画化と称して進出し、散々な結果を招きました。バブル期を生き残った会社には、その期間に敢えて本業に特化した会社が多かったようです。これは経済が右肩上がりに成長していく段階では、本業に専念することで十分な業績を残せ、またそれが最も安全な方法だったということだと思います。時が変わり当時とは反対のような現在では、本業だけでは業績は萎みがちです。こんな時には、バブル期とは異なる発想の、「リスク回避のための多画化・新事業進出」に乗り出すことは有効だと考えます。

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