不況突破のための十二計 リストラ断行の計《中小企業応援リレーコラム vol.15》
がんばる中小企業応援リレーコラム
「不況突破のための十二計 リストラ断行の計」
中小企業診断士 安井 哲雄 氏
(PDFでお読みになりたい方はこちら)
今回リレーコラムを担当させていただきます安井哲雄(やすい てつお)と申します。よろしくお願いいたします。
不況でリストラが行われています。今回は「リストラ」の意味、方法と留意事項について考えてみたいと思います。
1.リストラとは
大不況で、リストラという言葉に触れる機会が多くなっています。「リストラ」から何を思い浮かべますか? ― そうです。今日の日本では大概、「人のリストラ」を連想し、一般には「人件費の抑制」や「人員の整理・解雇」という意味で使われています。
現在は需要の減少で企業業績が不振となり、「リストラ」で賃金の減少と雇用不安が生じて消費意欲が落ち込んでいます。このため消費が減少しモノが売れず、物価が下がり企業の売上と損益が悪化する「デフレ・スパイラル(デフレの悪循環)」に陥っています。
売上減少を食い止められなければ、費用削減の一つとして人件費を削減し、状況によっては余剰人員の削減や正社員の解雇も避けられないことがあります。企業存亡の折には緊急避難として、やむを得ない側面はありますが、「人のリストラ」には限界があります。また、景気が回復した時に、業績の回復や企業の成長を阻害することになりかねません。
そこで、リストラの本来の意味と方法を考えてみましょう。
「リストラ」は英語のRestructuringから来ています。Restructuringは「再構築」と訳されます。この場合は「経営や組織の再構築」、すなわち「経営を変えること」であり、「経営の構造や方法」を変えることです。 リストラには、4つの段階、種類があります。
①事業リストラ、②業務リストラ、③財務リストラ、④人員リストラです。
2.事業リストラ
市場が収縮している現状では、モノが売れず価格競争が激しく、価格を下げたとしても、簡単に売れないし、売れても利益が出ず損益が悪化します。これに対して、各企業は既に様々な対策を打っていることと思います。例えば、
・売上向上策: 顧客購買数の増加が見込めない時に客単価を増やして売上を増やす
・利益の確保策: 仕入原価や在庫、販売管理費を削減して利益を確保する
しかし、こうした努力も簡単に功を奏せず、業績が苦しい企業も多いことでしょう。
そうなると、今の事業全体の戦略や事業モデルを見直し、事業リストラを行うことが必要となります。そのためには、冷静沈着に何度も繰り返して考えることが求められます。
「現在の市場、経済、競争などの環境は、どうなっているか。将来は、どうなるか。」
「当社の商品が売れない原因は、何にあるのか。どうしたら売れるのか。」
「お客は何を求めているのか。」
「現状の販売の場所、時期、方法とチャネルが適正なのか。」― など。
そのうえで市場にマッチした商品、顧客、独自の販売方法を考案し、競争価格とローコストオペレーションが均衡した事業構造を目指して、事業を再構築します。
一般に、事業リストラには次の方法があります。
① 経営の革新: 新商品・新サービス、新市場・新顧客、新しい販売方法、新技術・新しい生産方法などを創造し、業態を変更、或いは、新しいビジネスモデルを創る。
② 他社と連携、提携、事業統合、M&Aを行って、規模の利益や相乗効果を得る。あるいは、新しい付加価値を作り出す。
③多角経営の場合には、「多角化」か「事業の選択と集中」のいずれかを見直す。
④組織全体の無駄を排除し、業務効率を行う。
3.業務リストラ
事業リストラとまでは行かなくても、業務プロセスの見直しは重要です。例えば、
・商品管理: 商品戦略の立案と実行、商品仕入・発注管理の方法など。
・営業・販売管理: 営業戦略の立案と実行、営業員の教育と管理、顧客情報の整備と活用、広告・宣伝の方法と費用効果など。
・生産管理: 原材料の仕入れ、在庫、製造、出荷に至る工程は無駄がなく効率的な業務体制となっているか-など。
・財務管理: 経理決算が迅速、適正に処理され、経営判断に利用されているか、必要な資金が低コストでタイムリーに手当てし、円滑に資金繰りが行われているか、遊休資産や未収債権が多くはないか-など。
・人事労務管理: 社員の勤労意欲を高め、能力をフルに発揮させる人事制度と運用が行われているか、生産性に見合った賃金報酬を配分しているか-など。
これらの見直しにより、効率的、効果的な業務プロセスを形成しますが、その留意点はとおりです。
①タスクフォースを作り、必要があれば外部のコンサルタントを活用する。
②当該部門や関連部署でヒアリング調査を行い、現状と課題を把握する。
③部門内で改善を討議するとともに、改善計画を作成し関係者と協議・検討を行う。
④改善内容は文書化、マニュアル化するとともに関係者に周知する。
⑤業務プロセスの変革に合わせてITの活用を検討する。
⑥改善をモニターし、PDCAによる継続的な改善を行う体制をつくる。
4.財務リストラ
財務リストラについては、本リレーコラムの「資金繰り計画の計」、「資金借入の計」、「債権回収の計」と「在庫削減の計」に記載されていますので、ご参照ください。z
5.人員リストラ
「事業リストラ」や「業務リストラ」には相応に時間と費用が掛り、短期的に実現することは困難です。しかし、中長期的な計画を策定し、事業リストラや業務リストラに継続的に取り組まざるを得ません。
短期的で即効的な対策では、やはりコスト削減が大きな目標となります。コスト削減では、人件費の削減が大きな要素です。人件費の管理は、賃金管理(一人当たり賃金の抑制や引下げ)と要員管理(要員の調整)からなります。賃金管理と要員管理は各々、勤労意欲(やる気)や人材・要員の確保に係わりますので、管理運用には慎重な配慮が求められます。
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総人件費 = 一人当たり人件費 × 要員数 |
人件費の削減方策には、①補助制度の活用、②人件費管理の運用方法、③賃金制度の変更、④雇用調整があります。
(1)補助金制度の活用
「雇用調整助成金」(大企業向け)、「中小企業緊急雇用安定助成金」(中小企業向け)により、一定の条件で国から補助が出ます。いずれも、「景気の変動、産業構造の変化、その他の経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、その雇用する労働者を対象に休業等または出向を実施する事業主に対して、休業手当、賃金または出向労働者に係る賃金負担額相当の一部を助成することにより、労働者の失業の予防や雇用の安定を図る」ことを目的とする制度です。条件が該当する場合は、この補助金制度を活用して正味人件費を削減しつつ、人材の育成や活用を行い、経営基盤を強化しましょう。
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中小企業緊急雇用安定助成金の概要(平成22年1月10日現在) 【主な受給要件】 【受給額】 |
(2)人件費管理の運用方法
現行の制度下で人件費を削減するために、例えば
①時間外労働を削減することで時間外費用を削減する。
②出張を減らし出張旅費を減らす。このため、出張時は飛行機から列車に切り替える、グリーン車は止めて普通車にする。
③福利厚生費を見直し、教育費を減らす。(但し、後で影響が出てくる。)-など。
(3)賃金制度の変更
一時流行ったように年功序列・終身雇用型賃金体系を成果主義型賃金体系に変更することで、社員のやる気を維持しつつ処遇を変更します。また、職種によっては裁量労働を採用し、労働時間(拘束)でなく、成果で評価・処遇を行います。
本来の趣旨を満たすには、単に制度をつくるだけではなく、制度の考え方が理解され浸透することと、公正で適正な評価や考課者訓練が欠かせません。制度の定着浸透には、それなりの準備と時間を要します。
(4)雇用調整
色々と八方手を尽くし、やることはやったが万策が尽き、それでも企業の存続のためには雇用調整を行う=「人員のリストラを断行」せざるを得ないことがあります。そのような場合にはコンプライアンス(法律の遵守)に則り、「整理解雇の4要件」と「解雇の基本ルール」に留意してください。
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【整理解雇の4要件】 |
①余剰人員の整理解雇を行うには、様々なコストダウンを行ってもなお、人員事削減をしなければ企業の存続が危ぶまれるといった、「経営上の必要性」が強く求められる場合でなければなりません。
②残業規制、新規採用の抑制、役員や管理職の報酬カット、配置転換、出向、希望退職の募集など、様々な解雇回避努力を行ったが、それでも整理解雇に着手せざるをえない状況であることが必要です。
③整理解雇の対象基準は客観的な合理性が必要です。判例では、会社の業務に協力しない者、職務怠慢な者、技術が低位な者、欠勤が多い者、業績不良な者を整理解雇の対象とした場合は、合理的と判断されています。
④解雇対象者に対して、早い時期に「解雇する理由」や、「解雇対象者となった理由」を、誠意を持って説明し、協議を行う必要があります。また、労働組合への説明、協議も必要ですし、再就職への配慮は大事です。
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【解雇の基本ルール】 |
①解雇禁止制限事由
・業務上の負傷・疾病による休業期間、およびその後の30日間は解雇できません。(労働基準法30条)
・産前6週間、産後8週間の休業期間、およびその後30日間は解雇できません。(労働基準法19条)
・女性のみを解雇するなど、解雇が性別による差別である場合は解雇できません。(男女雇用機会均等法7条) その他
②解雇予告ルール
・解雇をする場合、少なくとも30日前に労働者に対して解雇の予告をするか、それに代えて解雇予告手当として30日以上の平均賃金を支払わなければなりません。(労働基準法20条)
・但し、天災事変その他已むえない事由により事業の継続が不可能となった場合や、労働者の側に責任がある場合など、いずれも労働基準監督署の「解雇予告除外認定」を受けていれば、解雇予告も解雇予告手当も必要ありません。
③就業規則と労働契約の規定
・解雇に関する規定を就業規則に記載することは就業規則、労働契約の「絶対的必要事項」です。(労働基準法89条、15条)
④解雇事由の合理性と相当性
・解雇事由の合理性とは、「その労働者が解雇されることに誰しも納得できる状況にある」ことです。
・解雇事由の相当性とは、「解雇に至る原因、状況と重大な処分である解雇とで均衡がとれているか」ということです。
法律に抵触する解雇を行うと、訴訟になった場合に事業主側が敗訴し、多額の賠償金を支払う羽目になります。また、紛争や裁判に疲れて本来の事業リストラに取組むことができなくなり、残った社員のやる気がなくなり業務リストラも難しくなります。
更に将来に景気が回復してきた局面で、人材が不足し、企業の成長や発展を行うのに支障がでてきます。人材の選別やコア人材の温存・引き留めも必要になります。
人員リストラを断行する前には、環境を冷静に見つめ、社員の気持ちとコンプライアンスに配慮し、企業の将来を見据えて慎重に熟慮し、勇気をもって英断することが肝要です。









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