不況突破のための十二計 資金繰り計画の計《中小企業応援リレーコラム vol.9》
がんばる中小企業応援リレーコラム
「不況突破のための十二計 資金繰り計画の計」 中小企業診断士 井上 孝 氏
(PDFでお読みになりたい方はこちら)
今回リレーコラムを担当させていただきます 井上 孝(いのうえ たかし)と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
はじめに
昨年の米国の金融危機に端を発します、百年に一度といわれる不況のなかで、中小企業の経営者の皆様におかれては、日夜、生き残りをかけて頑張っておられることと思います。さて、資金繰りの要諦は「入るを量りて出ずるを制す」にあると思いますが、企業が倒産する時というのは、わずか10万円の資金不足であっても倒産することがあります。この10万円は、あらゆる手段を尽くした果ての10万円なのでしょうが、このような事態にならないように、今回は「資金繰り計画の計」について述べさせていただきます。
資金とは
資金とはご承知の通り、事業活動に伴う支払いや決済の手段のことです。企業活動における資金は、人間の体の中の血液に相当するといわれますが、酸素でもあります。6ヶ月以内に二度不渡りをだすと、銀行取引停止処分を受け、事実上倒産となってしまうからです。
資金は、その使途によって運転資金と設備資金に分けられます。企業は製品または商品を販売してその代金を回収する前に、その製品の原材料の仕入・生産や、商品の仕入を行います。運転資金とは、それらの代金を支払うために必要な資金のことで、その間の人件費や諸経費の支払いも含みます。貸借対照表の売掛金に受取手形を加えた、売上債権と棚卸資産との合計額から、買掛金に支払手形を加えた、買入債務を差し引いて把握されます。
設備資金とは、企業の投資計画に基づき、生産設備や流通設備などの投資に投入される資金で、比較的金額が大きく長期にわたって固定するのが特徴です。自己資金のほか、長期間利用可能な長期借入金や社債によって調達した資金を投入します。
現行の会計制度においては、収益は商品や役務を提供した時に計上するという実現主義により、費用はその発生を意味する経済的事実に基づいて計上するという発生主義により計上しますので、現金の収入・支出とは一致しません。その結果、企業としては損益計算書上、利益がでていても資金が不足し、「勘定あって、銭足らず」、いわゆる黒字倒産が発生することがあります。販売代金が未回収の状態では、利益 ≠ 資金だからです。
企業が円滑に事業活動を行うためには、収益・費用の動きとは別に、資金の動きを管理する必要があります。ツールとしては、資金繰り表とキャッシュ・フロー計算書があります。
資金繰り表は、将来の一定期間、例えば6ヶ月先、少なくとも3ヶ月先の収入と支出を分類・整理し、資金の過不足状況を計画するための資料で、資金は足りるのか、足りないのか、足りないとすればいつ、いくら足りないのか、どうやって資金手当をするのかという「お金のやり繰り」に活用されます。前月繰越、営業収入、営業支出、営業収支過不足、財務収入、財務支出、財務収支過不足、総合収支過不足、翌月繰越などに区分した形式のものが使われています。
キャッシュ・フロー計算書は、「キャッシュの流れ」を営業、投資、財務の区分に分けて、期首のキャッシュが期末にいくらになったのかを示すもので、中小企業には作成する義務はありませんが、「なぜ資金が足りなかったのか」、「どうすれば資金を増やすことができるのか」という原因の追究・解決に活用し得る重要な資料です。
資金繰り悪化の要因とその対策
資金繰り悪化の要因の第一は赤字経営です。販売代金が回収されると、利益は資金の増加となり、資金の源泉になります。その反対に、損失すなわち赤字経営が続くと、資金繰りが悪化しボディブローとなって、いずれは倒産という事態を招きます。
対策は赤字経営からの脱却です。具体的には、誰に何を売るのかという製品・市場戦略の見直しによる売上の拡大、製品・商品ミックスの見直しによる粗利益率の改善、ムダの徹底排除による固定費・変動費の削減、赤字事業の見直し、組織のスリム化、人事制度の見直しなど、社長のリーダーシップのもと、全社を挙げて取り組む必要があります。第二は回収・支払サイト差の悪化です。販売代金の締め日から回収する日までの期間を回収サイト、仕入代金の締め日から支払う日までの期間を支払サイトといいます。サイトは売掛金・受取手形、買掛金・支払手形の残高を1日当りの売上高で割って算出する保有日数で把握します。回収サイト>支払サイトをサイト負け、回収サイト<支払サイトをサイト勝ちといいます。回収サイトが延び、支払サイトが短くなると資金繰りは悪化します。
対策は条件変更による回収・支払サイト差の改善です。サイトの変更は新規の得意先・仕入先から取り組むのが無難ですが、既存の得意先に対しても短縮可能なところから取り組む必要があります。ただし、既存の仕入先に対して、不用意に支払サイトの延長を申し入れると、信用状態を疑われ、あらぬ噂が広まらないとも限りませんので、慎重な対応が必要です。
第三は在庫の増加です。品切れによる販売チャンスロスの発生を恐れて、とかく在庫を過剰に保有する傾向がみられますが、在庫は貸借対照表上、棚卸資産の残高となって資金が滞留してしまうことになり、在庫が増加すると資金繰りは悪化します。
対策は重点管理による在庫の削減です。在庫の水準は売上高を在庫金額で割って算出する回転率、または在庫金額を1日当りの売上高で割って算出する保有日数で把握します。適正在庫を維持するためには、ABC分析による重点管理が参考になると思います。品目数で上位20%、金額で80%程度を占める範囲をA品目とし、次いで品目数で30%から50%、金額で15%程度を占める範囲をB品目とし、残りはC品目としてランク付けします。A品目は重点管理品目としてきめ細かな管理をし、B品目はA品目よりは管理レベルを下げ、C品目は必要なときに発注し、手間をかけないというものです。
第四は得意先の倒産による売上債権の貸し倒れの発生です。回収ができなくなったことで、損益的には利益減少要因となりますし、資金繰りも悪化します。
対策は得意先の与信管理による貸し倒れの発生防止です。得意先ごとに与信限度額を設定・遵守し、得意先の倒産兆候の情報収集と速やかな債権保全措置の体制整備も必要です。
第五は無謀な設備投資の実施です。投資をしたらトコトン設備を使い切ることが鉄則ですが、タイミングを誤ったり、身の丈を超えた過大な投資を行い、設備が遊んでしまうと、売上・利益の獲得に繋がらず、借入の返済はしなければならず資金繰りが悪化します。
対策は綿密な投資計画に基づき、設備投資を実施することです。投資額は自己金融額の範囲内に抑えることが望ましいといえます。自己金融額とは、税引き後利益から配当金を差し引き、減価償却費を加えたものです。遊休資産の処分も検討する必要があります。
そのほか、無理な株主配当の実施、過大な役員報酬・賞与の支払などにより資金繰りが悪化しますので、適正レベルに見直すことが必要です。また、借入はその返済額が負担とならないよう、年間の返済額を自己金融額の範囲内にすることが望ましいといえます。
資金不足の手当
計画した資金繰り表上で、資金不足が見込まれる場合には、次のような資金手当の手段のなかから、タイミング・所要資金量・実現可能性などを勘案して、最適な手段を選択し、速やかに実行することが肝要です。
(1)自社で資金をひねり出す
①在庫を処分して現金化する
②遊休資産を売却する
③売掛金の売却、資産の流動化を行う
④固定資産のセールス・アンド・リースバックを行う
⑤人件費・諸経費を節約する
⑥定期預金・定期積立金を解約する
(2)金融機関にお願いする
①受取手形の割引を行う
②長期借入を行う
③短期借入を行う
④公的融資制度、セーフティネットを活用する
(3)得意先、仕入先にお願いする
①得意先に売掛金の前倒し支払をお願いする
②仕入先に買掛金の支払延期をお願いする
(4)最後の手段
①借入金の返済のストップ・先送りなど、リスケジュールを金融機関にお願いする
②支払手形のジャンプを仕入先にお願いする
③給与の支払いを遅らせる
(4)の手段は文字通り最後の手段であって、早めに(3)までの手段を講じて(4)の手段を講じなくてもすむようにすることが必要です。
金融機関との信頼関係
資金の必要な時に、必要な金額をしかも低金利で調達できるように、日頃から金融機関との信頼関係を構築しておくことが肝要です。最近では金融庁の勧めもあって、金融機関が融資をする際に、これまでの担保偏重の考え方から、顧客情報に基づき企業の経営力を判断していこうとする、リレーションシップバンキングの考え方が導入されてきております。金融機関との長期にわたる親密な関係を維持していくためには、決算書のみならず、事業計画書を策定し、積極的に開示していく姿勢が必要となります。
資金関連ソフトの活用
キャッシュ・フロー計算書については、「中小企業の会計ツール集」というソフトが中小企業庁のホームページから、また、資金繰り表についても、簡単に作成できる「中小会計①6ヶ月資金繰り表」というソフトが、中小企業基盤整備機構のホームページから無料でダウンロードできますので、活用をお勧めします。
尚、事業計画についても、「中小会計⑧事業計画」というソフトが中小企業基盤整備機構のホームページからダウンロードできます。こちらも金融機関との信頼関係維持のみならず、社長の熱い想いの周知徹底・社内の目標の共有化のために活用されるとよいと思います。
終わりに
縷縷述べさせていただきましたが、経営者の皆様にとって、一つでもお役に立つことがございましたら幸いです。大企業の一部には明るさが見え始めたとのことですが、中小企業にとりましてはまだまだ厳しい状況が続くものと思われます。「自分の城は自分で守る」との強い気概を持って、これからの企業経営に臨んでいただきたいと思います。









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